東京高等裁判所 平成6年(行ケ)257号 判決 1996年1月30日
埼玉県草加市栄町2丁目4番5号
原告
三山工業株式会社
同代表者代表取締役
高橋英三
同訴訟代理人弁理士
萼経夫
同
中村壽夫
同
宮崎嘉夫
同
加藤勉
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官 清川佑二
同指定代理人
高橋邦彦
同
幸長保次郎
同
小田光春
同
吉野日出夫
同
関口博
主文
特許庁が平成4年審判第11872号事件について平成6年7月15日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
主文と同旨の判決
2 被告
「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告は、昭和61年3月28日、名称を「ウインドワイパの凍結防止装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(特願昭61-70072号)をしたが、平成4年4月30日、拒絶査定を受けたので、同年6月22日、審判を請求した。特許庁は、この請求を平成4年審判第11872号事件として審理した結果、平成6年7月15日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年10月22日、原告に送達された。
2 本願発明の要旨
ブレードラバーを除くワイパブレード全体を、弾性回復力を有する伸縮自在な薄いゴム製の袋体で包囲し、該袋体のブレードの本体側に加熱空気導入用管を接続したことを特徴とするウインドワイパーの凍結防止装置。(別紙図面1参照)
3 審決の理由の要点
(1) 本願発明の要旨は、前項記載のとおりである。
(2) 実願昭52-145364号(実開昭54-71343号公報)のマイクロフィルム(以下「引用例」という。)には、「ブレードラバーを除くワイパブレード全体を、ゴム製の袋体で被覆(包囲)し、該袋体のブレードの本体側に加熱空気導入用管を接続し、カーヒーターファンの回転速度の切替えにより送風量を調節し、ワイパ・ブレード・アッセンブリの氷結、氷着を防止した冬期用ワイパー装置。」が記載されている。
(3) 本願発明と引用例に記載されたものとを対比する。
引用例のものも冬期に用いられる氷結等を防止したワイパー装置であるので、本願発明と同様にウインドワイパー凍結防止装置ということができる。したがって、両者は、
「ブレードラバーを除くワイパブレード全体を、ゴム製の袋体で包囲し、該袋体のブレードの本体側に加熱空気導入用管を接続したウインドワイパーの凍結防止装置。」である点で一致している。
しかし、引用例において、本願発明の「弾性回復力を有する伸縮自在な薄いゴム」という記載がなされていない。
(4) しかしながら、ゴムは伸縮自在で弾性回復力があるので、引用例のゴム袋体も送風量の調節により袋体は膨縮して袋体表面の氷着物を落とすことができるものであり、本願発明と同様の効果を奏するものである。そして袋体の膨縮度は、ワイパーと袋体との隙間量や送風量に関係して変化するので、本願発明の袋体が「薄い」ゴム製と限定したとしてもかかる構成には意義を見いだすことができず、結局、両者間には実質的な差異を認めることはできない。
(5) したがって、本願発明は、引用例に記載されたものと同一のものと認められ、特許法29条1項3号の規定により特許を受けることができない。
4 審決を取り消すべき事由
審決の理由の要点のうち、(1)は認める。同(2)のうち、(包囲)の点を争い、その余は認める。同(3)のうち、引用例のものも冬期に用いられる氷結等を防止したワイパー装置であるので、本願発明と同様にウインドワイパーの凍結防止装置ということができるとの点は認め、その余は争う。同(4)、(5)は争う。
審決は、本願発明の技術内容の認定を誤ったため、引用例に記載のものとの相違点を看過し、かつ、相違点に対する判断を誤ったものであるから、違法として取り消されるべきである。
(1) 取消事由1(一致点の誤認、相違点の看過)
<1> 本願発明の特許請求の範囲に記載された「包囲し」とは、「気密に包囲し」を意味する。
明細書で使用される用語の意義については、その定義が明細書中になくとも、その意義を明細書及び図面の記載全体から解釈することが一般に認められているところ、本願明細書の発明の詳細な説明においては、本願発明のウインドワイパの凍結防止装置は、ブレードラバーを除くワイパブレード全体をゴム製袋体で気密に包囲するという構成を備えているものと明示されている(甲第3号証4頁15行、16行、同7頁7行ないし12行)。本願発明は、加熱空気導入用のゴム管9からゴム製の袋体5内への加熱空気の供給により、袋体5及びその内部空間の加熱と袋体5の体積膨張とが同時進行し(同5頁17行ないし6頁13行)、この作用の直接の効果として、「ワイパブレードの構成部品を包被する弾性回復力を有するゴム製袋体に加熱空気を送って膨らませることにより、袋体の内部温度を高め、かつ袋体の外表面に付着している凍結物を強制除去できる」という効果が期待できる(同9頁12行ないし10頁3行)というものである。したがって、本願明細書及び図面の記載全体よりみて、本願発明の特許請求の範囲における「包囲し」とは、気密に包囲するとの意味である。
一般に、ゴム製の袋体が膨らむには、袋体の内部圧力が袋体の有する弾性回復力よりもより高いことが条件とされる。しかしながら、凍結により袋体表面の付着水が氷結し又は袋体の外表面が氷雪により覆われている状態にあっては、袋体の内部圧力が、袋体の有する弾性回復力と袋体表面の氷雪被覆を破壊するのに必要な押圧力との合計和よりも上回らないと、ゴム製の袋体は膨らむことができない。
一方、自動車の室内暖房器(カーヒーター)よりファンで送られる加熱空気(流量 乗用車でおよそ300~600m3/時間)の圧力は、普通、大気圧を僅かに上回る程度の低い圧力である。
したがって、ゴム製の袋体が気密になっていなければ、たとえ袋体に導入される気体の供給量をその漏出量よりも多くしたとしても、袋体に導入される加熱空気が低圧の気体であるため、それの導入によって袋体の内部圧力を上記の条件を満たす水準にまで高めることはできない。
<2> したがって、本願発明は、ブレードラバーを除くワイパブレード全体をゴム製の袋体で気密に包囲するという構成の点において、そのような構成を有しない引用例記載の考案とは明らかに相違するものであり、審決は、一致点を誤認し、この相違点を看過している。
(2) 取消事由2(相違点に対する判断の誤り)
審決は、本願発明の袋体が「薄い」ゴム製と限定したとしてもかかる構成には意義を見いだすことができないと判断しているが、誤りである。
<1> 引用例の冬期用ワイパ・ブレード・アッセンブリは、アッセンブリの両端に温風流出口2、2を各々形成し、温風の圧力も大気圧を僅かに上回る程度の低いものであるので、温風を温風送入口1よりゴムなどのアッセンブリ被覆の中へ導入したとしても、導入された温風はアッセンブリ被覆内部を通って流出口2より連続的に流れ出るため、零下30℃の環境下で凍結したアッセンブリ被覆は、いくらか変動することはあっても、全体として膨張するものではなく、その後、温風の導入を中断したとしても、上記のアッセンブリ被覆は、全体として収縮するものではなく、アッセンブリ被覆の内部体積の実質的な減少は見られない。引用例の考案では、温風の連続流動により、アッセンブリ被覆の内部の加温又は適温保持のみがなされ、アッセンブリ被覆の膨縮によりその外表面に付着している凍結物を落とすという作用を営むことができるものではない。(別紙図面2参照)
被告は、引用例に記載の考案における温風の送入量は流出量より多くなっていると主張するが、引用例に記載の考案における温風の流入量と流出量は実質的に等しいものと考えられる。
<2> これに対し、本願発明における弾性回復力を有する伸縮自在な薄いゴム製の袋体という構成は、前記のブレードラバーを除くワイパブレード全体をゴム製の袋体で気密に包囲するという構成と相まって、袋体の膨張作用を容易ならしめ、凍結物の除去効果を促進するという点で意義のあるものである(甲第3号証4頁8行ないし10行、甲第5号証2頁8行ないし13行)。
第3 請求の原因に対する認否及び反論
1 請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。
2 反論
(1) 取消事由1について
引用例に記載の考案の「被覆」が本願発明の「包囲」に相当するとした審決の認定に誤りはない。
a 「包囲」とは、「つつみかこむこと。まわりをとりかこむこと。」(広辞苑)を意味する用語であり、必ずしも気密の意味を伴うものではなく、
b 一般に袋体に気体を供給して膨らますとき、袋体は気密になっていなくても(例えば、開口があったとしても)、供給する気体の量を漏出する気体の量よりも多くすれば、袋体は膨らむことから、本願発明の袋体を膨らませるためには、ブレードラバーを除くワイパブレード全体を、袋体で気密に包囲することが必ずしも必要でないことは明らかであり、
c 本願明細書で使用される「包囲」との用語が、気密に包み囲むことを意味するということは、この明細書中で定義されていない。
そこで、これら三つの点を考慮して、本願明細書の特許請求の範囲をみると、その特許請求の範囲には、「ブレードラバーを除くワイパブレード全体を、弾性回復力を有する伸縮自在な薄いゴム製の袋体で包囲し、該袋体のブレードの本体側に加熱空気導入用管を接続した」と記載されていて、この記載自体には少しも不明確なところがなく、かつその意味内容を把握理解するのに困難があるということもない。また、用語「包囲」の前後の記載からみても、その「包囲」の態様が、「気密」であることを示す限定は何もないことは明らかである。
一方、引用例に記載されたアッセンブリ被覆も、特にその図面(別紙図面2)を参照すると、ワイパ・ブレード・アッセンブリの両端に流出口が設けられているもののブレード8を除いてワイパ・ブレード・アッセンブリ全体を包み囲んでいることが認められるものである。
(2) 取消事由2について
本願発明の袋体が「薄い」ゴム製であるという構成には意義を見いだすことはできないとした審決の判断に誤りはない。
まず、審決の「引用例のゴム袋体も送風量の調節により袋体は膨縮して袋体表面の氷着物を落とすことができるのであり、本願発明と同様の効果を奏するものである」との判断に誤りはない。ゴムが弾性回復力を有し伸縮自在であることはよく知られている特性である。そして、この特性に基づいて、ゴムから成る袋に圧力を有する流体を入れると、その圧力により袋が膨張することも経験上知られている。そこで、引用例に記載されたゴム製のアッセンブリ被覆(「ゴム袋体」)についてみるに、この被覆がワイパ・ブレード・アッセンブリのカバーとして使用されていることから、その厚さは、ワイパ・ブレード・アッセンブリの作動に支障がないように通常薄くされていると考えられ、またワイパ・ブレード・アッセンブリの両端から流出するファンによって加圧された温風により・フロントガラス上の降雪を吹き飛ばす旨の引用例の記載から分かるように、アッセンブリ被覆に導入される温風はかなりの圧力を有するとともに、温風の送入量は流出量より多くなっているものと認められる。そうすると、このような状況下では、アッセッブリ被覆が膨らむであろうことは、前述のゴムの特性及び経験上知り得た事項より明らかである。さらに、この膨張の度合が、送入する温風の量に依存することもまた明白である。
次に、袋体の膨張の度合には、袋体の厚さのほかに、送風量やワイパーと袋体との間隙量(袋体の大きさ)が関連することは当業者にとって明らかであり、袋体の膨張作用により袋体の外表面に付着した凍結物を除去すべく所定量の膨張度合を確保するために、これらの関連する要素をどのように設定するかはその設計に当たり当然考慮すべき事項である。そして、本願発明が袋体を「薄い」ゴム製とした点は、その当然考慮すべき事項を本願発明の構成として採用したものにすぎないし、その構成によって生じる効果も予期し得る程度のものである。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。
理由
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願発明の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
そして、審決の理由の要点(1)、(2)のうち(包囲)を除く事実、(3)のうち引用例のものも冬期に用いられる氷結等を防止したワイパー装置であるので、本願発明と同様にウィンドワイパーの凍結防止装置ということができるとの点は、当事者間に争いがない。
2 原告主張の取消事由1の当否について検討する。
(1) 「気密」とは、「気体を通さぬこと。気体に対して密閉されていること。」(広辞苑第四版)を意味する。本願発明の特許請求の範囲で使用されている「包囲」とは、「つつみかこむこと。まわりをとりかこむこと。」(広辞苑第四版)を意味し、その言葉自体では気密に包むものとは言えない。そして、本願明細書の発明の詳細な説明の項を見ても、「包囲」の意味を定義する記載は見当たらない。
(2) 甲第3ないし第5号証によれば、本願明細書の発明の詳細な説明の記載は次のとおりであることが認められる。
自動車のウインドガラス用ワイパは、寒冷地方では冬期に凍結し作動不良を起こす。これを防ぐ方策として、ワイパブレード全体をゴム部材で覆ったスノーブレードが一部使用されている。しかし、ゴム部材で覆っても、特に気温がマイナス30℃以下にもなる北海道等の降雪地帯では、ゴム部材そのものが凍結するばかりか、リンクレバー4、パッキング2までも凍結するため、ワイパブレードの正常な払拭機能が妨げられ、十分な効果が得られないという実情にある。本願発明は、さらなる改良を加えたワイパ凍結防止装置を提供しようとするものである(甲第3号証1頁17行ないし3頁18行)。
本願発明が採用した構成は、「ブレードラバーを除くワイパブレード全体を、弾性回復力を有する伸縮自在な薄いゴム製の袋体で包囲し、この袋体には、袋体の内部を昇温させるための加熱空気が導入されるよう、加熱空気導入用の連絡管を接続したことを特徴とするものである」(甲第3号証4頁2行ないし7行、甲第4号証2頁6行ないし8行)。「袋体の厚さは内部に空気が供給されることにより所定量膨らむよう薄く設定する」(甲第3号証4頁8行ない10行)。「ブレードラバーを除くワイパブレードの全体は袋体によって気密に包被する」(同4頁15行、16行)。「袋体に取付けた管は加熱空気源に連絡し、その途中に開閉バルブを設ける」(同5頁1行、2行)。「袋体に導入される加熱空気を得る方法としては、次の方法がある。すなわち、第1に独立の燃焼器を具備しその燃焼熱を利用する方法、第2にエンジン冷却水を熱交換器に導き車室外の空気又は車室内の空気を送風機で該熱交換器に通して加熱する方法、第3にエンジンの廃熱(排ガスの余熱)を利用する方法があり、車両室内暖房器またはデフロスタの加熱空気源と兼用化しうる」(同5頁5行ないし13行)。
「(加熱空気導入用)管から加熱空気を袋体の中に供給すると、袋体とその内部空間部が昇温され、かつゴム製の袋体そのものが体積膨張する。このため、厳寒地帯であっても袋体内のリンクレバー、バッキングおよび袋体の凍結物を確実に融解除去することができる。本願発明では、袋体が膨らむと同時に該袋体の外表面に付着している凍結物が落とされ、しかもゴム製袋体による内部空間部の保温効果が大きいので、その分だけ加熱エネルギーの節減化が達成できる」(同5頁最終行ないし6頁10行)。
「本発明によれば、ワイパブレードの構成部品を包被する弾性回復力を有するゴム製袋体に加熱空気を送って膨らませることにより、袋体の内部温度を高め、かつ袋体の外表面に付着している凍結物を強制除去できるようにした・・・」(甲第3号証9頁13行ないし17行、甲第4号証2頁12行、最終行)。「伸縮自在な薄いゴム製の袋体で、ワイパブレード全体を包むようにしたので、気密に包被することができるとともに加熱空気の導入により容易に膨らみ袋体の外側に付着している凍結物を強制的に除去することができる」(甲第3号証10頁3行、甲第5号証2頁8行ないし13行)。
(3) 上記(2)に摘示した本願明細書の発明の詳細な説明の記載からすると、本願発明がワイパブレードを包むゴム製の袋体を膨張させることによってその外表面の凍結物等を落とすことを技術思想とするものであることは明らかであるところ、原告は、この点から本願発明の特許請求の範囲にいう「包囲し」を、ブレードラバーを除くワイパブレード全体を「気密に包囲し」と限定して解釈すべきであると主張する。
しかしながら、上記のとおり、確かに、本願明細書の発明の詳細な説明には「気密に包被」すると記載されているけれども、特許請求の範囲には「気密に」との記載はなされていないし、発明の詳細な説明中にも、「包囲」の意味を定義する記載はない。また、被告が主張するとおり、供給する気体の量を漏出する気体の量よりも多くすれば、袋体を膨らませることができるとの技術常識によれば、凍結により袋体表面の付着水が氷結し又は袋体の外表面が氷雪により覆われている状態ではともかく通常の状態においては、気密になっていなくても、袋体が弾性回復力を有する伸縮自在な薄いゴム製であれば、袋体を膨らませることは可能であると認められる(そして、この点は、加熱空気導入のために通常の車内暖房器の加熱空気源と同じものを使用する場合であっても、同様であると認められる。)。これらによれば、本願発明の特許請求の範囲にいう「包囲し」をその通常の意味に反して「気密に包囲し」の意味と限定して解することはできないといわなければならない。
(4) したがって、原告主張の取消事由1は理由がない。
3 次に、原告主張の取消事由2の当否について検討する。
(1) 甲第2号証の1、2によれば、引用例に記載の考案は、本願発明と同様の課題の解決を目的として、「被覆されたワイパ・ブレード・アッセンブリのホルダ附近に温風送入口1を設け、カーヒーターの送風口に直結された第2図3の温風導入管(・・・)を最短距離でワイパに導き、・・・送入口に接続する。温風はブレードアッセンブリ内に導入されて内部を流動し、第1図2に示される両端に設けられた流出口より流出する。」(甲第2号証の2第2頁2行ないし8行)との構成を採用し、「このようにすると、カーヒーターの送風口からブレード・アッセンブリまでの温風導入管内の温風は、多少の温度降下はあるにしても温風の連続流動により、ブレード・アッセッブリを適温に保持させることができる。ブレード・アッセンブリへの温風送入は車室内のカーヒーター・ファン駆動スイッチにより行い、送入量はファンの回転速度切換えと導入管の径により調節できる。常に適温に保持されたワイパ・ブレード・アッセンブリにより付着した雪は融け、ブレードにも氷着することなくワイパの払拭能力の低下を防ぐことができる。また、ブレード・アッセンブリの両端より流出するファンによって加圧された温風により、フロントガラス上の降雪を吹き飛ばしブレードの払拭効果を助け、さらに車室内のデフロスターとの併用によりフロントガラスのくもり止めの役目を果すと考えられる。」(同2頁8行ないし19行)との作用効果を生ずるものと認められる(別紙図面2参照)。
以上によれば、引用例の明細書(甲第2号証の1、2)には、アッセンブリ被覆が膨縮することの明示的記載はなく、ゴムが弾性回復力を有し伸縮自在であること等を考慮しても、引用例の明細書に接する当業者にとってその点が自明であると認めることもできない。
(2) 被告は、アッセンブリ被覆の厚さは、ワイパ・ブレード・アッセンブリの作動に支障がないように通常薄くされていると考えられ、また、アッセンブリ被覆に導入される温風はかなりの圧力を有するとともに、温風の送入量は流出量より多くなっているものと認められるから、アッセッブリ被覆が膨らむであろうことは、前述のゴムの特性及び経験上知り得た事項より明らかであると主張する。
しかしながら、前記(1)に判示のとおり、アッセンブリ被覆内に送入される温風は、カーヒーターの送風口に直結された温風導入管から供給されるものであり、その圧力がアッセンブリ被覆を膨張させるほどに高いものとは認められず、アッセンブリ被覆の厚さも、被告主張のように「通常薄くされている」と一義的に考えることもできないから、温風の送入量が流出量より多くなっており、したがって、アッセンブリ被覆を膨張させることにより、外表面への付着物を落とすとの技術思想が引用例の明細書中に開示されていると認めることはできない。
(3) これに対し、本願発明は、伸縮自在な薄いゴム製の袋体との構成を採用することにより、前記2に判示のとおりその外表面への付着物を強制的に除去することを目的として、袋体が加熱空気の導入により膨らむことを容易にしているものである。
(4) そうすると、本願発明の袋体が「薄い」ゴム製であるという構成には意義を見いだすことはできず、両者間には実質的差異を認めることはできないとした審決の判断は、誤りであるといわざるを得ず、この点の判断の誤りが審決の結論に影響することは明らかである。
4 よって、原告の本訴請求は理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙図面1
<省略>
1…ブレードラバー
2…バッキング
3…ブレード本体
4…リンクレバー
5…袋体
6…ワイパブレード
9…ゴム管
12…ヒータ
別紙図面2
<省略>